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THE青ジャージいちばんきれいなものをタダで見せて下さいおよそ200g架空の冒険者オモチャはちらかっている/オグラBOX三枚組



廻せ!廻せ!


薔薇と孤独とビッグ・バン!

ボックスカバー
MODI Creative Co,Ltd. CXCA-1190〜1192
オグラBOX3枚組/オグラ(06年)



青ジャケ1青ジャケ2
青CD
青盤
  1. 廻せ!廻せ!
  2. 晴天なり
  3. バブルの夕暮れ
  4. ルンルンサイクリング
  5. ハートの値段
  6. 春の理想




赤ジャケ1赤ジャケ2
赤CD
赤盤
  1. 2拍子の現実
  2. 進め!バンドミュージック
  3. 蒸発&ランデヴー
  4. プロローグ 〜Mr.オルガの嘆き
  5. Mr.オルガの嘆き




白ジャケ1白ジャケ2
白CD
白盤
  1. 雨の声
  2. 月光銭湯
  3. 永遠の酒
  4. 散歩
  5. 薔薇と孤独とビッグ・バン!




三枚が猫に






オグラのソロ2nd。3年ぶりの新作は、お値段据え置きで豪華な3枚組。ふと気付くと、またまた、三拍子づいている。今回も、CDジャケットに書かれたオグラ自身の言葉をここに。

誰にも少しずつバレている 自分に少しずつバレている
ホントに楽しいのか? ホントに悲しいのか?

僕は自分を実験台にして 音楽をつくってみた
感情だけをのぞきこんで しつこく音楽をつくってみた

すると、驚くべき結果が出てしまった
行き場のない奇妙な歌の数々…

これは僕のみぐるしい記録である。    −オグラ−


そんな苦しさが我が身のことのように、心に沁み入ってきて、代わりにうめくように、ちょっとだけ涙が漏れた。


青盤

パッケージの解説からすると、「手廻しオルガン」、「バンド」、「アコースティック」の3種類の世界が3枚のアルバムになったとある。各CDが世界観を分類してるとすれば、青盤は「手廻しオルガン」パートになるのだろう。

1. 廻せ! 廻せ!
私は インチキ手廻しオルガンミュージシャン
私はさえない 鳴かず飛ばずのミュージシャン
ハンドル廻せば 私の世界が始まる
小さなこの箱で でかい音楽奏でましょう

最初に聞いた時、「あれ? シャンソン?」などと面食らったのだが、手廻しオルガンを廻す速度が速まった「廻せ!」な躍動感が心地良い。この感覚は、アルバム「いちばんきれいなものをタダで見せて下さい」の「7月31日」と似ていて、「進め!」「デフォルメしよう!」が「廻せ!」に変わったような印象。何か後ろめたさを振り切ろうとしてた「7月31日」に比べて、もうこっちは、完全に開き直ってる(笑)。

ベースが回る 和音が鳴る リズムが廻る 言葉が廻る
つまり、音楽とは回転である

「音楽とは回転である!」って言い切っちゃってるし。私も何か廻す物を見つけないと。

2.晴天なり
人格を軽めに設定して 出掛けよう
二人のために用意された 住宅街を

おなじみの日常風景を切り取った歌詞。青い空の下に広がる快適な午後の散歩。

青い空と 入道雲 すべては なぜか大丈夫
晴天なり 晴天なり シンプルな午後

3. バブルの夕暮れ
La・mamaにチケットとりに行き 坂を下って帰り道
今にも 転がりそうな夕陽 全財産 1110円

朗読メインの歌。お金も無いのに酒場へ寄ってチビリチビチビ味わいつつ飲み始める。

ホロ酔い気分で 店を出る 残った小銭が150円
50円玉の穴からのぞく 世間はカラフル経済天国

最後「これは1980年代後半 ある夕暮れの出来事…」で終わるのだけど、20年前の夕暮れを今頃歌うのはなぜだろう。「廻せ! 廻せ!」が開き直りだとすると、置いてきた昔の自分を客観視する余裕ができたのかな。

4. ルンルン サイクリング
僕は単なる自転車乗りとして 7月の町を駆け抜ける
ベンチで素足の小学生が 江戸川乱歩を熟読している
クソ暑い日々がつづくならまだしも 
生ぬるい日々が積み重なってく
いつもの風景 見飽きた景色 
またもや おまわりに停められた

ルンルンしちゃってるよ、林真理子か(←昭和か!)。この浮ついた雰囲気は「およそ200g」の「春の行進」ぽい。「春の行進」ではウキウキと歩き回ってたのが、パワーアップして、ルンルンとサイクリングしちゃってる、いい大人なのに(笑)。そーいえば、ホームセンター(例えば高円寺オリンピック)に並んでるような自転車に乗ってるオグラの写真が前作のライナーにあったな。あれに乗ってるのかな? でまあ、大人気なく調子づいてると……。

ルンルンルン〜 サイクリング サイクリング
ルンルンルン〜 どこへも帰りたくないよ
ルンルンルン〜 よろよろ町をさまよって
ルンルンルン〜 でも、サイクリング サイクリング
ルンルンルン〜 このまま どっか行っちゃおうかな?
あっ! しかし チェーンが外れた…

5. ハートの値段
蹴っ飛ばしたくらいで われちゃうのなら 
そんな所へ置いとくなよ
引っぱったくらいで ちぎれちゃうのなら 
そんな所へ置いとくなよ

柔なハートに限ってついつい無用心に扱っちゃって、後で泣く羽目になる。これが自分のハートなのか相手のなのかで話も変わってしまいそうだが、ま、気を取り直して、丈夫なのを買いに行く元気があれば、どっちでもいーか。

蹴っ飛ばしても、引っぱっても、かきまわされても
無邪気にありつづける
丈夫なハートを買いに行こう
ああ、今日はいい天気
お日様を少しちぎって 猫にあげた

6. 春の理想
臆病な僕たちは、周りのことだけでなく自分自身のことすら、ちょっとした変化もおっかなびっくりで受けつけない。理想論としては、そんな変化を春ととらえて成長しちゃえばいーんだよね、でも、ついつい、春の日差しと夏を警戒し、秋の日差しにようやく安心して冬を迎えるんだ。そしてまた巡って来た春に警戒したりなんかして。

突然、雲が流れて 陽が射しはじめた
子供たちが駆け出して 鳥が鳴きはじめる
単純なこの光をなぜ見ようとしないんだ
土の中 王様が 武器をかまえておびえてる

この世界は変わって行く 流れは止まらない 
あきらめたり 夢みたりの 目立たない人たち
魔法を使え 理想を使え 進化するんだ 
あんな遠くの方に ホラ、春が来てる



赤盤
これは、「バンド」パートかな。各曲の演奏に以前のバンドメンバーの名前が並んでいるので、古い音源をアレンジしなおしたのかと思って問い合わせたら、「古い曲はなるべく古いメンバーで」ということだった。という訳で、新しい録音。ついでに、ジャケットの丸部分は青盤が地球、白盤が月、まではすぐわかるけど、血管の浮き出たこの赤盤の丸は何だかわかりにくい。答えは眼底検査の時のオグラ自身の眼球だとか。見なれない影なんて写ってないよね?(笑)

1. 2拍子の現実
なんにも出来ないのならば 
なんにもしないってのはどうだ?
溶け込まないならば 
溶け込まないっておはどうだ?

自分を表現したいったって 
自分なんか本当にあんのかよ?
ありったけの日射しに照らされて 
生きてるような気がしない

バーボンを暴飲しよう バーボンを暴飲しよう
この血管が 河になるまで

ヒョロヒョロした音色のオルガンをメインにした青盤から、一気にバンドの荒々しい若い音に。歌詞も800ランプ時代のような、酒と月とモヤモヤな世界。

2. 進め! バンドミュージック
喰えない野郎が集まって
¥380ワインをラッパ呑み
あとはくだまいて眠るだけ
流行りも、未来も、しゃらくせえ

バンドミュージック バンドミュージック
バンドミュージック バンドミュージック
誰にたのまれた訳でもない 愚かな蛮行
バンドミュージック バンドミュージック
バンドミュージック バンドミュージック
ドス黒い夜に ぶっ壊れて 転がって行け

バンド野郎達の無頼な毎日。勢いと裏腹に安酒と客の少ないステージ。それでもバンドミュージックは進む。

3. 蒸発&ランデブー
このままどっか行っちまおうか? 
一碧万項 光の射す方へ
闇の中で穏やかな 口づけをかわし
スペシャルな君と 成行きにまかせて

空空漠漠 一筆勾消 琳琅満目 単純明快…

この曲は、青盤同様のオルガンメイン。幻想的な歌詞と早いテンポの曲調がタイトルにサスペンス的な不安感を煽る。ところで、難しい四字熟語が一杯で、意味が……(笑)。

4. プロローグ〜Mr.オルガの嘆き
高円寺のノイズと足音のみ。立ち止まると、本編へ。

5. Mr.オルガの嘆き
9分もある大作。途中、語りも入ったりしつつ、激しいクライマックスを迎え、映画のような物語性を感じさせる。

お日様は沈みながら 真っ赤に空を染める
彼は見た、圧倒的な光のかさぶたを
眼球を貫通する 圧倒的な美ぼう
その光のかさぶたから 誰かの声がする…

この辺り、眼球の赤盤たる所以なのかな。「ORUGA」は、「OGURA」なのか。

Mr.オルガ 軽薄に嘆くのはやめたまえ
無能な君に出せる光が一色しかないのならば
Mr.オルガ 始めたまえ さあ、つづきを始めたまえ
そこよりも前方へ ホコリ高いその靴で! Lalalala…

勇ましいマーチなんだけど、どこか寂しさを帯びてるところがオグラらしい。自尊心と自己否定との間の放浪。自嘲する暇があったら、腰を上げて続きを始める。そう、とりあえず、行為を続けるしかないんだ。



白盤

最後、アコースティックパート。



1. 雨の声
天がたらした 雨を吸い
電信柱 のびる頃
屋根に刺さった アンテナが
こっそりと 夜を受信する

僕らは 部屋の中
よどみきった 時間
ねえ、この雨を
通訳して下さい

チリ チリ バララ チチリ チリ
チリ チリ バララ チチリ チリ

アコースティックギターだけのシンプルな音色。雨の降る音を聞きながら、室内でよどんでいる時間。雨も随分と気分を左右させてくれる。

2. 月光銭湯
君が風呂のカベ塗っちゃったから 今日は銭湯へ行こう
石鹸箱をカラコロ鳴らし 富士山を見に行こうよ
昭和レトロなカップルみたいに トボトボ行こう
青い夜ふけがこぼしてくれた 月光浴びて

シンプルながらこちらはオルガンのみの音。「架空の冒険者」の「君にハンバーグ」のような、僕と君とのささやかな日常風景。月光の下でトボトボ歩くのも、二人なら悪くないもんだ。

自然の中で風化してゆく
人々のこだわりが
積み上げられて 積み上げられて 時代になる

いろんな人のいろんな日常がいろいろ集まって時代を形成する。そんな「いろいろ」の一部に過ぎなくとも、なんとなくなら心地良さも感じられる。

3. 永遠の酒
友よ 果てなき夢の途中
また あの酒場で逢おう

友よ 果てなき夢の途中
永遠の中で呑もう
永遠の酒を呑もう

ハーモニカとアコギでフォークティストな一曲。正直、時間が止まったままなら、馬鹿話のできる友と美味い酒があれば、それでいいような気がする。そんな友も酒も、歳をとるに従って少しずつ減っていく、大抵の人は逆に増えるもんなんだろうけどさ、なんて湿っぽいことを考えながら、つらつらと月夜に酒をちびちびり。ところで、各盤のライナーの写真には、それぞれに違った酒とツマミが写ってて、青盤はお銚子と蕎麦、赤盤は芋焼酎とタバコ、で、この白盤はジャックダニエルとナッツ。微妙に豪華なんだ(笑)。同じ酒でも、発泡酒を飲んでる私とは見える風景が違っちゃうな。ちゅうわけで、「2拍子の現実」で暴飲するバーボンもジャックダニエルなのかな?

4. 散歩
はじめにキスをして つぎに暮らしはじめ
ふたりで笑いころげて 僕らは仲間になった
君と住んだこのあたり 人影まばらな道で
君の口癖 想い出す 愛は楽しくなきゃダメよ

ふと、昔に生活していた場所を歩くことがある。すると、歩みに合わせてその頃が蘇り、移り変わる風景とともに過去のシーンが浮かんでくる。

僕らは散歩ばかりしてた 僕らは散歩ばかりしていたね
花があって 道があって 空があって 風が吹いていた
そして 雲は流れた
君が好きだったあの道を歩こう
振り向くとそこには ボタンが落ちていた

歩いてる自分と風景は今も昔もそれほど変わらないけど、昔に歩いた同じ道を久しぶりに歩いてみると、いろいろと違ってしまったモノがみつかる。変わらないモノと変わってしまった何か。思い出には失ったモノばかりが満ちていて、歩きながら涙も浮かぶ。

5. 薔薇と孤独とビッグ・バン!
薔薇と孤独とビッグ・バン 今も膨らむ星空 
目新しいものも見なれた現在
「個性など認めない」と流行が疾走する 
僕たちの懲りないありふれた好奇心
薔薇と孤独とビッグバン 部屋に帰ればひとり 
ぼんやりと天井ながめてるだけ
世界中のひとたちがみんな眠っている中 
自分ひとりだけが起きてるよな気分

薔薇、孤独、そしてビッグバンなんて、びっくりするような取り合わせながら、フォーンセッションも加わった豪華な音楽に、これはこれでありかと、寂しさなんて忘れて勢い良く飛び出したくなる、ような曲。

この夜空いっぱいに散らばる無数の星
にぎやかな光の下 集まりすぎた孤独
もう、つながるな 拡散せよ あらゆる方角へ 
飛び散って行け

固まって進む流行と、バラバラに形作る時代の中で、できれば、それぞれに小宇宙を形成する恒星になりたいもんだ。あくまで希望だけどさ。さて、力を蓄えて飛び出さなきゃ。という訳で、青盤1曲目同様、白盤最後も「7月31日」風に元気に百花繚乱したくなる。